世に世界の真の構造を探求し、真の権力構造を暴こうとするいわゆる陰謀論者は多い。だが、せっかくそのような志を持っても、そういう知的営為をなさんとする基礎になる思想的な基盤をスピリチュアルや日猶同祖論などを含む旧約の猶太神話など奇妙なものに置いている人が大変に多いように思う。(例:真の猶太人である日本人が偽の猷太人カザールを討つ云々)
これは陰謀論がオカルトと同列に扱われる温床になっていると思う。(「陰謀」と「隠れた謀」である。これは一般大衆からは隠れてはいるが決して超常現象ではない。人間の世界の出来事である。これを直接・間接の証拠や推論によって明らかにしようという知的営為のことを「陰謀論」と呼ぶ。陰謀追求とは極めて科学的な営みであるのだ。)中でも「日月神示」など、大本教系統の思想にかぶれている人たちがかなり目立つ。 吾人の見るところ、大本教は神道的装いはしているが、本質的には猶太一神教類似のものであろうと思う。 世界の終末やそこからの救済と救世主の観念、信者の選民意識、超越的な神観などがそれを物語る。 かかる思想は結局、陰謀論者が追求する対象である世界権力と同じ地盤の発想であって、結局、彼らと同じ土俵にのることになりいずれにしても最終的にはあるいは無害化されあるいは走狗とならざるを得ないであろう。そのためにこそこういう類の思想が流布されているように推測する。 親猶太主義者の松本寅彦が大本から金を引き出し、親猶運動を進めたように日猶同祖論の資金源の一つが大本教であったことや、教団内の実力者であった浅野和三郎が横浜のメーソンロッジに出入りしたり、心霊術を学んでいたことにもそのことが窺える。(渡部悌治先生著「ユダヤは日本に何をしたか」参照) 日猶同祖論やオウムの麻原にいたるまで影響を与えたある種の陰謀論は、この類の陰謀論であろう。 麻原は酒井勝軍がとなえた「ヒイイロカネ」の探索に傾倒したという。ニューエイジ系や基督教原理主義系の陰謀論などにもそれは当てはまる。 結局このような類の奇怪な思想に拠っては世界権力への根本的な批判は難しいのである。世界権力を根本的に批判するためには世界権力の思想・発想を根底から批判する思想基盤に立脚しなければならない。 愛宕北山先生は国際秘密力研究は正しい日本の理想と思想に基づかなければならないとおっしゃっている。さまざまな要素が絡み合っているが、国際秘密力との闘争とは結局思想戦に集約されるのである。 ある程度意識が高く、ある程度覚醒して意識的に世界権力を追求せんとする追及者にガス抜き的に与えられる陰謀理論がそこかしこに思想的なギミックとして張り巡らされているように思う。たとえば我が国の猶太陰謀論者の多くがひっかかる日猶同祖論などがその最たるものである。(戦前の代表的同祖論者酒井勝軍などはこれにまんまとひっかかった。その酒井系の陰謀論の影響を受けていたのが麻原だ。) その仕掛けは何重も渡るものである。かかるギミックを見抜き、真実にいたるためには、相当な批判精神を必要とする。それにはまず己の立脚する思想基盤を確立する必要がある。愛宕北山先生がおっしゃったように、陰謀研究は「正しい日本の理想と思想」に基づいてなされなければならない。 世界権力の基本的思想、そして最終目標は世界のそれぞれの地域の個別性を捨象して世界を画一化させるというものである。そこでまず、このような世界を均一化しようとする思想に対抗するためには己が生まれ育った祖国の地盤に立脚するといういわばローカリズムが第一歩となる。 そして常に地に足をつけて日本の理想と思想とは何かを問い続ける必要があるだろう。一見日本思想に見えて、本質はワンワールド思想である場合も多いのである。思想の探求は着実に慎重でなければならない。「日本の理想と思想」はスピリチュアルのようにコンビニエントに整えられた出来合いのものとしてすぐに手に入る類のものではないのである。孫子の兵法に「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」というが、外的には世界権力の思想態様を鋭く分析し、内的には根気強く自らの思想を掘り下げて探求していく必要がある。 大本教の解析は、それに続く戦前戦後のあらゆるカルトの思想形式や組織形態の根本的な祖形を解析することにもつながると思われるので、重要であると思う。媚米保守勢力に影響が強い戦後の代表的なカルトである統一協会は教祖の文鮮明が大本神諭が「予言」した「救世主」であるとして大本教義を流用したりしているという。 大衆を大規模に動員するというやり方は創価学会や幸福の科学などにもそっくりである。この手の新興宗教の教勢拡大の手法も大本が元祖なのであろう。創価は思想的には国柱会以来の日蓮主義の系譜の中でも検討する必要があろう。大本系神道とならび、近代の日蓮主義も猶太一神教的ギミック思想である。三井から金をうけとっていた北一輝も日蓮信奉者である。愛宕先生は「狂信日蓮宗の徒」として日蓮主義者を批判されている。幸福の科学に関しては一部右翼に大川隆法に期待する向きもあるなど、右翼と出口王仁三郎が共闘関係にあったことをほうふつとさせる。現代のカルト問題を考える上でも大本の考察は欠かせない。 戦前実証主義的な立場から大本教を痛烈に批判した精神科学の研究家である中村古峡という人物が著した「大本教の解剖」という著書がある。これは隠れた名著であると思う。大本教を単にバッシングしたのではない、極めて実証的・合理的な観点からまさに「解剖」した本である。推薦文には政治的に右から左まで、オカルト肯定者から否定者まで、幅広い知名の士が文を寄せていてそれを読むだけでも、当時の知識人が大本教をいかにとらえていたかの史料にもなり興味深い。 内容をかいつまんでご紹介する。出口なおを祖師とし、その祖師出口なおの「お筆先」を神諭として崇めるのが大本教であるが、直筆のお筆先を入手し鑑定した中村氏の分析では、お筆先には脈略のない文章を延々と書くという常同症の症状が見えるという。なおは大本教を開く前、金光教の熱心な信者であったそうだが、 うしとらの金神とは金光教で崇める神である。このことからも、出口なおの意識下に刷り込まれた「金神」のイメージの表出現象と考えたほうが合理的であろう。突然神がかりしたとは言うが、何も予備的イメージがない「神」が降りてきたわけではないのだ。まったく予備的なイメージも知識もない「神」が降りてきたのなら話は別であるが。そして出口なおに降りた「うしとらの金神」のお告げそのものは、年配の方に多いと言う入眠時の幻覚であるという。これもさもありなんである。 仕事師・王仁三郎はなおに痴呆の症状が出ていることをいいことに、なおを祭り上げ傀儡と化して、お筆先を改ざんし、整えた上で機関誌に発表したという。なぜ改ざんとわかるかといえば文章に脈略や統一があり、なおの直筆のお筆先と違い常同症の症状が見られないからだという。王仁三郎は決して直筆のお筆先を見せようとはしなかったという。さらには焼き捨てると言った。証拠隠滅である。 大本の言霊学は王仁三郎が京都の古寺の住職から購入した「水穂伝」の内容を他言無用と堅く住職と約した上で己のものとして発表したものであると指摘。中村は「水穂伝」の著者名を不明としているが、この「水穂伝」は山口志道という江戸後期の国学者の著作であると思われる。 さらにパラノイア気質が見られるという浅野和三郎が入信して教義を整備したことで、インテリの入信が増え、浅野が教団の実権を握り始めた。まさにその時期にこの書は著されている。中村氏は出口は自分のやっていることの本質をわかった上で敢えて教祖を演じている山師、浅野は本気で大本教義を信じ込んで他が見えなくなっているパラノイアであると指摘している。吾人も中村氏の解析は妥当であると思う。 この中村氏の解析を敷衍して昨今スピ系の陰謀論者などの間で流行の岡本天明の日月神示を察するに 大本信者であった岡本の脳裏に刷り込まれた大本教義が無意識に自動書記となってあらわれたものなのであろう。 大本にまったく関係がない人間のところにそのようなものが顕れれば「神のお告げ」の可能性は一応は残るかもないが、過去に大本教に入信していたりとか、過去に大本教義に触れていた人間のところにそういう自動書記現象が顕れても、意識下に刷り込まれた無意識の表出と見るほうがまず合理的で妥当であろう。
by kokusai_seikei
| 2012-11-18 01:27
| 陰謀解析
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by 菊池 カテゴリ
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